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大阪地方裁判所 昭和32年(わ)350号 判決

被告人 雲川種造

主文

被告人は無罪。

理由

本件公訴事実は

被告人は予ねてから妻久子(当二十七年)が近隣の雲川五郎と密通し家の金品を持出していると邪推していたが、偶々昭和三十二年二月二十六日午後零時三十分頃大阪府北河内郡交野町字倉治一九三五番地の自宅風呂場において、下駄箱を移動しようとし、同女に「これも片附けて置こう」と言つたのに対し、同女が「へいへいしますがな」と言つたので返事が気に入らぬと憤激し、傍にあつた餠搗用杵を振上げたが、尚も久子が背を向けたので突蹉に殺意を生じ、右杵を以て同人の後頭部を数回強打し、倒れた同女を風呂場より土間に降ろしたところ、既に同女は虫の息で蘇生不能と認められたところより、更に前記杵を以て同女の頭部を数回強打し、因つて同女をして脳挫、滅傷を蒙らせ、之によりその場に即死せしめたものである。

というのであり、この事実は被告人の第一回公判調書中のその旨の供述記載、被告人の検察官に対する供述調書、大村得三の死体鑑定書、押収の餠つき用キネ(昭和三二年裁領第二二七号)により明らかであるが、鑑定人金子仁郎の鑑定書には「被告人は本件犯行当時、嫉妬妄想、関係妄想を有して居り精神分裂病の妄想型に罹患していたものと認められる」とあり、その他被告人の上申書ならびに第二、三、四回各公判調書中証人雲川種吉、同千寿子、阿倍利貞の各供述記載を綜合すれば、被告人は犯行当時是非善悪を弁識し、その弁識に従つて行為する能力を欠き心神喪失の状態にあつたものと認められるので刑法第三九条第一項、刑事訴訟法第三三六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 今中五逸 吉川寛吾 児島武雄)

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